「大手に勤めながら遊ぶように働く」電通勤務、伝統文化の海外発信プロジェクトを推進する各務亮さんのワークライフ

大手企業に勤めながら、自分のやりたいことをやるのは本当に不可能なのか?
一見、可能性が低く思われがちな環境の中で、
人を巻き込み、新たな価値を生み続けている1人の男性がいました。
電通京都支社で働きながら独自のワークライフスタイルをつくる各務 亮(かがみ りょう)さん。
各務さんが語る、クリエイティブな日々から生まれていく文化の新しい価値とは。
(インタビューアー・編集長 鳥巣愛佳

株式会社電通 京都支社 各務亮さん

京都からグロー バル企業の海外戦略を担当しながら、伝統工芸の海外発信プロジェクト「GO ON」太秦映画村を文化エンタメパークに変身させる「太秦江戸酒場」はじめ各種文化プロジェクトのプロデュースに多数とりくむ。既存商品のマーケティングやブランディングに留まらず、京都や日本の伝統をベースに、まだ世にない価値を生み出す、事業クリエーション、サービスクリエーションを実践中。

「ヤバいと思う状況を楽しむ」ゲームをしている感覚でやり抜いた入社後

ーそもそも電通に勤めるきっかけは何だったのでしょうか?

各務さん
学生時代に先輩に勧められて入りました。バイトに明け暮れていて就職も何も考えていなかったのですが、先輩が勤めていたので「面白そうだな」って(笑)

ーすごくシンプルなきっかけですね(笑)

各務さん
人生成り行きに任せて生かして貰っている感じです。ポジティブに言えば、どんな環境でも楽しめる適応力はあるかもしれません。海外も10年くらいいたのですが英語も最初は全く喋れず。いきなりマレーシアに飛ばされて、英語もできないのに「プレゼンして来て」などもありましたね(笑)

ーだいぶハードで驚いてます。落ち込むことはなかったんですか?
各務さん
相手の方や周りの方々にたくさん助けてもらいました。もうやれることをやるしかないので、ヤバいと思う状況を楽しんでいましたね。幸運で頂いた機会ですから失うものなんて何もないじゃないですか。あと昔から田舎で何もないとこで育ってきたので、いつも状況をどうしたら遊びに変えられるか、自分の遊びのルールを生み出せるかを考えていたんです。仕事も同じで、それがあり得ないような状況でも、逆手にとって自分なりの、ゲームとして楽しんでいるような感覚でいました。

GO ONで開発した海外向けプロダクトJapan Handmadのラインナップ

各務さんがプロデュースし6年目になる「GO ON」プロジェクトは「伝統工芸」を受け継ぐ若い後継者が、自分たちの技・素材を 国内外の企業・クリエーターに提供し、今までにない新しいものを生み出していく、プロジェクトユニットです。

アジア圏を移り住んだ後、縁もゆかりもない京都に移住

電通入社後は中国、シンガポール、インドなど拠点を移り住みながら日系グローバル企業の海外戦略を担当されていた各務さん、京都に移り住んだ理由に迫ります。

各務さん
海外にいた時から日本の良さには気づいていましたが、京都に来た時に強く、日本の文化が新鮮に思えたんですよね。混沌と興奮の渦巻くアジアの生活に慣れた自分には京都は穏やかで繊細で、何より人の繋がりや信頼関係を大切にしていていることに気づきました。そこに新しい価値を感じたんですよね。今考えると、よそ者の素人目線だからこそなのかもしれないのですが(笑)

ー「日本の文化には新しい価値がある」という発見だったのですね。
各務さん
日本の自動車会社や家電企業がこれまで世界に貢献してきた「いいものをお値打ちで」の時代は、次のフェーズに入ると思っています。機能や効率でなく日本の文化的価値を生かした世界への貢献ってあるんじゃないかって。便利になった世の中だからこそ、物を持って満足するだけじゃなく、もう少し精神的なもの、足元にある当たり前のことを見直したいんです。極端にいうと「人間ってなんだろう?」という問いを探求したいなと思いました。

「仕事の楽しみ方」クリエイティブは日々の感動から

ー「伝統×デザイン」というまさに新しい価値を提唱されている各務さんですが、そのようなクリエイティブな視点はどこからくるのでしょうか?

各務さん
日々、感じる感動を心にとめることだと思います。昔は誰でも虫獲りでドキドキしたり、何もない公園で延々と遊んだりして、小さなことにも感動していた時期はみんなにあるはずです。オトナになった今は、それが当たり前になりつい見逃しがちですが、それをしっかりと感じておく。原体験と日々の感動をミックスして、現代的にアップデートして、遊びを生み出したいと思っています。今も仕事の基本は、自分が欲しい、遊びたい、行きたい商品やサービスを自分でつくっている感覚です。

ー実際に、京都ではどんなことをされてきたんですか?
各務さん
着物が着たかったので、#playkimonoという着物を自由に愉しむプロジェクトをはじめたり、日本酒に詳しくなりたかったので日本酒を京都の文化人と飲み交わす太秦江戸酒場といイベントを開催したり…最近はそんな趣味的な仕事も本業の企業ブランディングの仕事と交差してきたような気もしています。

ー本当に自由ですね。自由な発想や文化への視点は、長い海外経験からのインスピレーションも大きいように思えます。
各務さん
インドやベトナムにいた時に感じたのですが、アジアは成長のエキサイトメントが魅力です。半端じゃない成長の可能性を感じたんです。みんな今日よりも明日がいいものだと信じて、仕事をしています。対照的に日本は成長期を過ぎて、成熟期に入っているのだと思います。

ー成長の余地がないからこそ、新しい価値に目を向けられたのですね。
各務さん
成長への刺激は魅力ですが、それだけが価値ではないなと感じます。成熟したものは、洗練や詫びの美しさがある。ただ古くて洗練されたものはいいのですが、それを朽ちるに任せてはいけないと思っています。不要な形式は破壊することで、活性化して本質的な価値を守る。プロジェクトを通した実践を繰り返しながら、伝統のあるべきバランスを試行錯誤中です。

GO ON×Panasonicで実施したミラノサローネのインスタレーション

「自分のために仕事をする」遊びで人を巻き込むマインド

ー私たちの世代には、伝統工芸や文化というワードは馴染みにくい印象もあります。それを伝えていくために意識していることは何でしょうか。

各務さん
伝統的な文化はそのままだと楽しみにくいんですよね。洗練を究め、ハードルが高くなっていることが往々にあるので。だからこそ、自分や仲間にとって面白いことに転換させるための「遊び」への編集は必要です。伝統にアイデアを掛けあわせることで、同世代の仲間にも共感してもらえるプロジェクトに仕立てて、周りを巻き込んでいきたいのです。

ー以前、京都の排他的な環境に苦労したとの文を拝見したのですが、どうやって乗り越えられたんですか?
各務さん
確かに京都のコミュニティに入るのは簡単なことではないと思います。でも実は、来た当初は気づいていなくって、難しいと気づいたのは最近なんですよね(笑)

ーすごくポジティブ!どうしたらそんなにまっすぐに仕事に向き合えるんでしょうか?
各務さん
仕事をしていると、ついつい周りの期待応えようとして辛くなってしまうことがありますよね。また逆に周りからに評価や見返りを求めてしまうこともある。でも最終的には周りの反応や評価は関係なくて「自分の心に従ってやっているかどうか、自分がやりたいかどうか」が大事なのかなと思います。好きなことなら、理不尽も苦労も気にならない。何があっても続けていける。それが積み重なれば、最初は距離があったとしても、徐々に信頼してくれる人は増えてきます。誰になにを言われようが関係ないのかな、と。

クリエイティブを生むためのバランス

ー自分のやりたいことが見つけられない人も多い中で各務さんは、自分の心に目を向けているからこそ、クリエイティブを追求していけるのかもしれないですね。

各務さん
どんな時でも自分のパフォーマンスを発揮できるようにしたいので、心と体のバランスは意識しています。最近もスリランカで世界三大伝統医学のひとつであるアーユルヴェーダに触れて「健康って何だろう」と考える機会があり、そう思うようになりました。東洋医学の考え方は仕事にも繋がっていますね。

ー東洋医学はバランスを重視していますもんね。
各務さん
例えば「ものが売れない原因は商品のせいだ」と何かひとつの原因に捉われるのでなく、売り方なのか、価格なのか、働き方なのか、関わる人の想いなのか…全体の循環を考えるようなりました。目の前の悩みに捉われ過ぎず無駄な執着を捨てて、今の自分ができることに集中することが、仕事にも幸せな生き方にも繋がってると思っています。

ークリエイティブな仕事だからこそバランスを重視されているんですね。クリエイティブとバランスは一見対称的に見えますが、趣味と仕事の垣根がない中では特に、必要になる2つなのかもしれないです。
各務さん
100年時代と言われるこの時代に、僕、ずっと遊んで生きていきたくって。ワクワクすることを発明し続けていきたいので、自分が心を動かされる瞬間を大切にしたいと思っています。伝統はもちろんですが、テクノロジーも海外も興味ありますし、懐かしい原体験も全部大切にしたいですね。自分の感性に従って、そこから仕事を創っていきたいと思います。

好奇心とガッツのある20代と仕事が出来る喜び。仲間と産業を創る未来予想。

ー当メディアの読者は20〜30代が多いのですが、今の若い世代の印象はどうですか?

各務さん
僕にも30歳のアシスタントがいますが、学ぶことが多いですね。昔はお金や出世に捉われる時代でしたが、今の世代は遣り甲斐に素直に向き合えている印象です。そんな生き方には刺激を受けるし、脅威も感じています。

ー各務さんの周りにはそんな仲間が集まっていくイメージがすごく湧いて、なんだかワクワクしてきます。
各務さん
そういった仲間が増えていくと産業ができて、市場が盛り上がっていくんですよね。若い世代に仲間が増えると嬉しいです。伝統文化はお金になりにくいと思われがちですが豊かで贅沢な一面もあります。そういった魅力を共有できる同志を時間をかけて増やしていきたいですね。

ー話を聞いているだけで、文化の魅力に触れられた気がしました。
各務さん、ありがとうございました!

2018年10月26日㈮明治時代にタイムスリップ「岡崎明治酒場」を開催!

岡崎明治酒場イメージ画像

各務さんが10月に手がけるのは「明治時代にタイムスリップして伝統・アートを遊ぶ」をテーマにした岡崎明治酒場。
京都岡崎エリアの文化施設が一夜限り、150年前の姿を取り戻します。
平安神宮・岡崎公園・京都モダンテラス&ロームシアター・京都伝統産業ふれあい館・京都市動物園・京都市美術館などを夜の特別会場に、数多くの「明治時代」を演出。 
岡崎エリアが開発された明治時代にタイムスリップして、岡崎の文化施設を巡りながら、音楽、芸術、舞台、動物、料理、お酒などの多様なアートを遊ぶお祭りです。 
開催日:2018年10月26日㈮17:00~23:00

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ASSIST編集長。早稲田大学商学部卒、競技エアロビックはじめダンス歴17年の経験を生かし4~90歳の運動指導に従事。女性のためのヘルシービューティをプロデュース。 2014年インターナショナルエアロビックチャンピオンシップ日本代表。 2015年学生エアロビック選手権優勝。 フィットネスウエアブランド「CLAP」ライダー。 複数のウェブメディアを立ち上げ13億円のメディア売却事業にも携わる。