「日本のものづくりの未来」 ドリームインキュベータの戦略コンサルティングから生まれた社会課題解決×事業創造アプローチ

様々な働き方や価値観が議論されている昨今。
サラリーマンでありながら自ら独創的な事業を創造することを、イメージしている人も増えてきているのでないでしょうか。
今回は戦略コンサルファームのプロジェクトから独自で事業を立ち上げ、新しい価値を生み出していくビジネスマンに迫りました。

(インタビューアー・編集長 鳥巣愛佳

上田甲斐さん(一般社団法人家庭まち創り産学官協創ラボ 代表理事)
京都大学農学部、東京大学大学院工学研究科を卒業。在学中に米国・中国・英国に留学。株式会社キーエンスにて営業・技術営業・営業戦略に従事。現在は戦略コンサルティングを手掛ける株式会社ドリームインキュベータにてビジネスプロデューサーとして、大手メーカー各社の戦略策定・省庁の政策立案に従事。兼業で一般社団法人家庭まち創り産学官協創ラボを起業。

家庭と産業を支援する法人を設立。家庭をとりまく社会課題を解決しつつ、ものづくりの在り方を追求

ー戦略コンサルティングから応用した事業とのことですが、どんなことをされていますか?
上田さん:立ち上げた家庭まち創り産学官協創ラボでは、家庭を取りまく課題を解決しつつ“新しいものづくり“を主なテーマに、新たな産業を創ることを目的にしています。家庭と産業を繫ぐための事業を、大きく3つ行っています。

海外経験で気づいた日本のものづくりへの危機感。研究者志望からビジネスの世界へ

ー日本のものづくりについて、どうしてそれほど強い情熱を持たれたのでしょうか。
上田さん:きっかけは大学時代の留学です。海外の大学生がアグレッシブに挑戦する姿を目の当たりにして、日本の大学生が呑気に遊んでいることに危機感を持ちました。 例えば、中国の清華大学では、朝の7時には図書館の席は座れないほど埋まり、食事中でも世の中の課題について熱心に議論していました。「国際競争というのは、こんな人達が相手なんだよな」と毎日のように思っていたのです。

ーそれは強烈な体験ですね。
上田さん:10年前の当時、それを日本で周りの学生や社会人に伝えると「日本の技術に海外が追いつくまであと30年はかかる。大丈夫だ」と言われたのです。その時に、こういう考え方ではこの国は衰退していくと気がつきました。 そこから、研究者として技術の世界で貢献するよりも、ビジネスの世界で考え方を変えていこうと思ったのです

ーそこから、どうして今のキャリアに至ったのですか?
上田さん:良いモノを作るための“モノづくり”でなく、社会の課題解決全体の“枠組みづくり“をする中で、モノを位置づけていく必要があると思いました。そこで、ソリューション起点でアジャイル型のものづくりをしているキーエンスで、新しい発想のものづくりを学びました。
※アジャイル:事業開発の各段階を、横断的に早いスパンで繰り返していくこと
その後、日本のものづくりにもっと広く貢献したいと思い、戦略ファームの中でも産業創出や社会課題解決を掲げるドリームインキュベータに入社しました。

ドリームインキュベータの戦略コンサルプロジェクトの中から生まれた、社会課題を解決する新たなアプローチ

ー今取り組まれている事業を立ち上げたきっかけは何ですか?
上田さん:この事業は、ドリームインキュベータが実際に手掛けた社会的課題を解決するための戦略コンサルプロジェクトから生まれました。少子高齢化・地方創生対策の政策立案プロジェクトを担当する中で、ボランティアの課題調査勉強会を最初は趣味で作ったのがきっかけです。 最初は週末に家庭・子育て・介護の色んな勉強会に参加していました。その中で、それぞれの立場の人の言っていることが、噛み合っていかないことに気付いたのです。

—それの違和感の原因は何だったのでしょうか?
上田さん:現場と、その現場に対して課題解決する方の意思疎通が機能していかなかったのです。
NPO職員/主婦/介護士/保育士の方は、現場の課題についてとんでもなく精通しています。しかしそれらの課題を言語化・一般化したり、原因を分析した話ができておらず、その課題を解決すべき側の企業・行政・大学等にきちんと伝わっていない状態でした。
一方で、産学官の担当者の方は、他分野や消費者のことも自分の専門分野の枠組み入れ込んで考えてしまい、課題を表面的にしか理解できていなかったのです。

—その対極的なギャップに、社会課題を解決し新たなものづくりにつなげる余地を見いだされたのですね。
上田さん:そこで、勉強会で知り合った人達や、元々運営していた大学同窓会の仲間に声を掛けて、産学官の担当者が垣根を越えて話し合う勉強会を作って、政策立案プロジェクトに役立てていきました。 これは世の中のために意味があるということで、ドリームインキュベータの上司が柔軟に理解してくれたことに、とても感謝しています。

産学官の人達の勉強会で得たものから、新たな事業の創造へ

—その勉強会では、どのような発見がありましたか?
上田さん:週末の有志の勉強会という位置付けで、特定のテーマで産学官の立場の違う人達が数十人集まり、課題・原因・解決策・成功事例をどんどん蓄積していって、それらについて話し合うことを毎週末しました。無数に矛盾する情報や考え方が出るので、最初の1ヶ月間は頭が混乱するほどでした。 3ヶ月もやっていると、矛盾した考え方の背後にある統一された思考体系が見えてきましたね。実は本質的に同じものを違う角度で見ていることに、どんどん収斂されていきました。

—本当に違う考え方が理解し合えたんですね 。
上田さん:そうすると「この成功事例を、こう応用したらここで実現出来る」という内容が山ほど出てきたのです。それらをすぐ試して改良することを早いスパンで繰り返すことで、実際に行政の制度や、企業の事業として実現したものがたくさん出てきました。また、戦略コンサルや、キーエンスのようなアジャイル開発や、他のアプローチも含め、色々な方法論の間にあった矛盾も乗り越えられたのです。これを新しいものづくりのあり方に出来ると思いました。
そこでのご縁から意気投合して、取り組みを公式に後援してくれる自治体や、事業パートナーになってくれる企業もいくつか出てきました。
—新しいものづくりのあり方に気付いた先は、どのようなことを目指していらっしゃいますか?
上田さん:このやり方を体系化・組織化し、更に新しいアプローチを加えていこうと思い、公共性も考えて一般社団法人を作りました。今後は、戦略コンサルティングの発展系として、戦略・試作・試供・連携・課題解決を広く横断した、新しいアジャイル事業創造・制度構築のプラットフォームを作っていきたいと思います。

圧倒的な行動量とリソースを意識した生活術×仕事術

ー自ら起業した事業もそうですが、家庭もあり、今でもまずは会社の一員としてしっかりと業務に取り組んでいると聞いて驚きました。
上田さん:単純に人の2倍は頑張らないといけないので、圧倒的な行動量には重点を置いています。少ないリソースで要領良くやろうとすると、長期的には真っ当に戦略コンサルや親として成長しないので、あくまで全体のリソースを増やしています。

—具体的に意識されていることはありますか?
上田さん:目の焦点が合う範囲を広げて、10倍の速さで速読する訓練とかは地味にしました。 会社の業務もこの事業も家庭も、一枚の地図で考えるようにして、いつも自分がどこかに立っている感覚を持っています。世の中のほぼ全ては産業と家庭の枠組みの中に入るからです。
竹馬のように、一歩が進めば、別のところが進むようにして、実現させる戦略をイメージしていますね。 そうすると、自然と分野を横断した応用が沸いてきます。
例えば、自宅で家事を自動オペレーション化して時間のリソースを増やしつつ、そのノウハウを組み込んだ家事代行サービス事業を作ったり、それを生活課題や解決ノウハウを蓄積する基盤にして事業創造に役立てたり、という感じです。
すごく丁寧にイメージを伝えて下さいました。

日本は、本当は可能性が豊富にある国。若者が夢を叶える方法は

ー最後に、アシスト読者が自分らしく仕事をして夢を叶えていくには、何が必要だと思いますか?
上田さん:世の中のありきたりのレールに乗ること、誰もやってないものに取り組むこと、この2つの対極をあえて両方追求することだと思います。 アメリカでは、レールに乗らないイメージがあるように、人がやらないことで成功する環境が整っています。しかし日本では、そもそもレールに乗ってないとチャンスが少ないんです。

—レールに乗ると、チャンスが増えるのでしょうか。
上田さん:そこが本質的なところで、レールに乗ろうとする過程で、創意工夫することを抑制しないといけないので、レールに乗った人達が自ら新しいものを創り出しにくい。これが、アメリカや中国と比較して日本が閉塞的になる理由だと思います。
そこで 一旦振り切ってむしろ手堅くレールに乗りつつ、もう一方で振り切って自由な発想をし続ける。そうすると、海外よりもずっと少ない競争で、本当は日本には未開拓のチャンスが山ほど転がっています。

ー上田さん自身も日本の特徴を生かしながら、自らチャンスを作っていかれたのですか。
上田さん:私は大学の学部時代、真面目に卒論研究をしていましたが、それで卒論を早々に終わらせて、勝手にまだ1月なのに東京に引っ越して、大学院の研究を始めました。そして、入学前に研究の目処を付けて、空いた時間で勝手に留学やインターンの準備をして、それでも研究室では結果を出して…という感じです。
中途半端に新しいことをすると叩かれるのが世の常ですが、ぶっ飛んで先回りしたことを別途やっている分には、良い意味で理解すらされないです。

—結果もしっかりついてきていると、周りも味方になってくれそうですね。
上田さん:それを諦めずに続けていくと、型通り実直にやっていることと、ぶっ飛んでいることが段々繋がっていくので、結果は着実に出てきます。その後に周りが理解し始めますが、その頃には圧倒的な結果や信頼関係が積み上がっているので、色んな人が協力してくれます。
「思いっきり古いもの」と「思いっきり新しいもの」は突き詰めることで実は融合出来る。 これも、日本の古き良きものづくりの考え方を次の時代に生かせる、一つの答えだと思います。 これって一見難しそうに見えて、本当に単純で簡単なことなんです。 「努力すれば夢は叶う」と、誰もが素直に思える世の中になればと思っています。

編集後記

作業面の時間を極小化する地道な工夫も積み上げたりしていると話して下さった上田さん。努力の量や謙虚な姿勢にも脱帽でした。 ビジネスの産み方や視点の持ち方など非常に勉強になりました。 ありがとうございました!
(インタビューアー・編集長 鳥巣愛佳

家庭まち創り産学官協創ラボ

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ASSIST編集長。早稲田大学商学部卒、競技エアロビックはじめダンス歴17年の経験を生かし4~90歳の運動指導に従事。女性のためのヘルシービューティをプロデュース。 2014年インターナショナルエアロビックチャンピオンシップ日本代表。 2015年学生エアロビック選手権優勝。 フィットネスウエアブランド「CLAP」ライダー。 複数のウェブメディアを立ち上げ13億円のメディア売却事業にも携わる。